お決まりの台詞を背に受けて近所のコンビニを後にする
すっかり顔馴染みになってしまった店員さんと世間話をすることも当たり前になってしまった
何も聞かずにスプーンを二人分入れてくれたことを思い出して、袋の中を覗いてみれば一個のアイスに二個のスプーンが入っている
それを見て何とも言えない気持ちになりながら、エレベーターに乗り込んで自宅へ向かう
ポケットから鍵を取り出そうとすれば、ガチャリと鈍い音が響いてドアがゆっくりと開いた
「おかえり」
「ただいま」
私の頭を撫でながら出迎えてくれる凌統に先刻までの疲れは何処かに消え失せてしまった
一人のときは音も無く静まり返った部屋に戻るのは好きではなかったけど、最近は寄り道するのが惜しいと思うくらいに、二人で過ごせるこの部屋が好きだった
「メール見てくれた?」
上目遣いでこちらを見る凌統に持っていた袋を手渡せば、待ってましたと言わんばかりに中身を漁り始める
お目当ての品を前にして鼻歌なんか歌いながらベリベリとアイスを開封していく
恋人よりアイス優先ですか…と悪態をつきながら上着を脱いで凌統の目の前にある椅子に腰掛ければ中身は既に半分以下になっていた
「これ、すげー溶けてるんだけど…」
そう言って少し溶け始めたアイスをスプーンに乗せてこちらに訴えかけてくる
近所のコンビニで買ったんだからそう簡単に溶けるとは思えないけど…と言っても納得してないようで不満そうな顔をしながらアイスを食べ進める
毎日こんなの食べてお腹壊さないのかな、とか言いたいことは色々あったけど本人は満足そうなので敢えて何も言わずにその様子を見守っていると
「…昨夜のことでも思い出してんの?」
突然の爆弾発言に口に含んでいた水を思わず吹き出しそうになる
ニヤッと憎らしい顔でこちらを覗きこんでくる凌統の所為で、昨夜のことを鮮明に思い出してしまって途端に顔が赤くなった
視線を逸らして席から離れようとすれば、腕を掴まれてその場から逃げられなくなる
「はい、あーんして」
「…やだ」
昨夜と同じこと言ってるよ?なんて更に追い討ちをかけるような台詞を真顔で言う目の前の憎たらしい恋人に勝てるわけもなく素直に口を開ける
「ほんと、はいい子だね」
甘い言葉と同時に口に広がるアイスの甘さが酷く心地良かった
食べ終わったアイスのゴミを片付けて夕飯の支度をしていると、後ろから凌統の腕が伸びてきた
どうやら甘えたい気分みたいで、私の首元に顔を埋めながらぽつぽつと名前を呼んでいる
返事をしないで機嫌を損ねるのも嫌なので料理を続けながら適度に相槌を打つ
「今度からスプーンは1個でいいよ」
「そうだね」
「ん…」
また顔を埋めて縋るように抱き付いてくる凌統が愛しくて、料理を中断して頭を撫でる
撫でられた本人は顔を上げて目を細めながら更に擦り寄ってきた
きっと他の人にはこんな表情見せないんだろうな…と考えるだけで愛しさが更に込み上げた
「ー…」
「な…」
返事をしようとした瞬間に口を塞がれた
人の話を聞かないで何度も口付けを繰り返す凌統と向かい合う態勢になれば、耳元に顔を寄せられて息を吹き掛けられた
身を捩って逃げ出そうと試みたけど、失敗に終わることを悟って今夜も大人しく彼に身を委ねることにした
「ありがと、愛してるよ」
結局この言葉には敵わないから
(明日は帰りに雪見の大福だっけ?あれ、買ってきてよ)
(凌統それ好きだったっけ?)
(アンタが好きって言うからだろ)
(覚えてたんだ…)
(当たり前だっつーの)