「…失礼しましたー」

呆然とするボスとから視線を外してフランは静かにドアを閉める
今見てしまった光景をどんな言葉で表現すればいいのか
この後の展開がどうなっていくのか、そんなことを考えてドアに寄り掛かる

「見ちゃいましたよー」

思わず漏れる笑い声と一緒に軽やかに廊下を進んでいく

「貴様、何をニヤニヤしている」

目の前には不愉快極まりない顔
普段ならコイツに不快感しか覚えないが、今日は違った
しかし最初に打ち明けるのがこんな奴でいいのか…そう考えて再び不快感を露にする
ワザとらしく首を傾げて考える素振りを見せた後に再び笑みを零して

「レヴィさんには教えませーん」
「なっ!何を隠している!?」
「教えないって言ってるだろ聞こえなかったのか変態」
「んなっ!!」

驚き動揺するレヴィに暴言を吐き捨て、隣を通過する
後ろからギャーギャー喚いてる声が聞こえたけど、それを完全に無視して廊下を進む
うずうずしているのに最適な相手が見付からない
自分がこんなに他人という存在を必要とすることなんて滅多にないのに

「誰かに言いたいですー」

先程見た二人の顔を思い出すだけで笑いが込み上げてくる
この面白い出来事を隠すつもりなんて毛頭ない
自分の性格の悪さは自覚してるし、それを改善しようなんて思わない
そんなことを誓いながら廊下の角を曲がったところで軽快なステップの音が聞こえた

「あら、フランちゃん」
「ルッスーリア先輩」
「ご機嫌ねー!何か良いことでもあったのかしら?」

スキップしながら洗濯物を運ぶオカマの先輩に声を掛けられる
ニコニコ楽しそうに聞いてくるルッスーリアの顔を見て少し考え込んだ後に
フランはターゲットをこのオカマ野郎にしようと決意した

「ルッスーリア先輩!良いこと教えてあげましょうかー?」
「あらあら、何だか楽しそうね!教えて教えて〜!!」

腰をくねらせながら詰め寄るルッスーリアに少し怯えながらフランはルッスーリアに先程起こった出来事を話し始めようとした

「実はですね…」
「フラン!!!!!!」
「げろっ…」

声のする方を見れば我等がヴァリアーのボスである人が物凄い形相でこちらに向かってきた
いつも以上の気迫に背中が凍り付くような感覚が襲う

「あら〜ボス右手と右足の動きが一緒になってるわよ!しかも汗びっしょり…タオル使う?」

ルッスーリアからタオルを受け取り目の前で呆然とするフランを睨み付ける
敵に凄んでいるザンザスを見ることはあっても、それを自分に向けられると流石に恐怖心が芽生えた
いつも以上に凄んでいるザンザスに現状が飲み込めないルッスーリアは不思議そうに首を傾げる

「フラン、話があるから部屋に来い」
「ミーはルッスーリア先輩と大事な話が…」
「何か言ったか?」
「…分かりましたー」

ムスッとした表情で部屋に戻るザンザスの後ろを付いていくフラン
それを見送るルッスーリアは、通りすがりのレヴィに洗濯物を押し付けて二人の後を追った
残されたレヴィは状況が飲み込めないまま、その洗濯物を片付け始めた

「…用事って何ですかー?」

ザンザスの部屋に入るなり、ソファに腰掛け退屈そうにフランが問い掛ける
聞かれることは分かっているが、此処で引いたら負けということは嫌でも分かった
こんなことを考える時点で既に負けているのかもしれないけど

「見たよな?」
「ボスがに膝枕してもらって耳掃除してもらってたなんてミーは知りませんよー」
「黙れ!黙ってろ!」

フランの発言に動揺したザンザスは自室の冷蔵庫に閉まっていたプリンを取り出しフランに差し出す
普段この人からプリンを貰うことなんて有り得ないから、素直にそれを受け取る

「買収ですかー?」

無言で視線を逸らすのは、きっと事実だからだろう
それを頭に仕舞い込んで話を再開させる
どうせ買収されるなら色々試してみよう…と、フランは今の状況を楽しむことにした

「ミーの部屋にあるソファ少し小さいんですよねー」
「…好きなだけ買ってこい」
「あと、テレビも調子悪いしー」
「買え」
「それからー…」
「ストップ!!!!!」

フランがニヤニヤしながら物欲を発揮していると勢いよくドアが開き満面の笑みを浮かべたルッスーリアが入ってきた
その瞬間に部屋の温度が急激に下がり、恐ろしい程の寒気が二人を襲う

「全部聞かせてもらったわよ?」

ニッコリ微笑んでいる筈なのに、サングラスの奥は笑っていないことを2人は確信していた
殺されるかもしれない、二人の脳裏には今までの出来事が鮮明に映し出される

割れたグラスの合計520個
割れた窓ガラスの合計400枚
壊したイスの合計325脚
壊したテーブルの合計300台
破壊した車の合計105台

歴史には刻まれない屋敷での悲劇を思い返しながら
今までザンザスが故意に破壊したものを挙げていくルッスーリア
それを聞いているフランも他人事とは思えないほど恐怖心が募るばかりだった

「…ふんっ」
「分かってくれたら良いのよ〜」

完全に消沈したザンザスから視線を逸らすと次は怯えたフランに目を向ける
目は見えないものの只ならぬ雰囲気を感じ取って猛烈な寒気に襲われた
後ろで涼しい顔をするザンザスに復讐を誓いながら、現状を打破する為に頭をフル活用する

「フランちゃ〜ん」
「ミーは別に…冗談ですよ!冗談に決まってるじゃないですかー」

あはは…と空笑いしながらドアの方へ歩みを進めていく
考えた末の結論は、この悪魔が住んでいる部屋から逃げ出すことだけだった
扉の方にじりじりと近付いてみれば、ドアノブまではもう少し

「…冗談でも次言ったら…」
「も、もう言わないですー!ボスが誰とイチャイチャしてても何も言わないですー!」

半泣き状態で恐怖に怯えながら、フランは部屋を勢いよく飛び出した
振り向いたら殺される!そんな予感が脳裏を過り振り向くことを忘れて全力で廊下を駆け抜ける

「あ、あのオカマ怖すぎですよー…」
「フラン!」
「#name_1…」

今までの光景が嘘のように優しい雰囲気を醸し出す彼女を見てフランの心は少しだけ癒された
思わず抱き付いてみれば優しく頭を撫でてくれる
カエル越しでもその暖かいの手に触れて徐々に落ち着きを取り戻す筈だったのに

「あの、さっきの…」
「だ、だだだ誰にも言わないですよー!!!!」
「え、ちょ、早っ!!」

言われた瞬間に先程の悪夢が蘇り、の腕を擦り抜けて慌てて自室の扉を開ける
その後、数日間フランはルッスーリアから逃れるため自室から出ることはなかった
心配したが、毎日のように様子を見に行ってザンザスに新たな恨みを買っていることを知るのは、まだ先の話だった

今日も

明日も

明後日も

独立暗殺部隊は平和です










(あんなに怖がらなくてもいいのに〜)
(…オカマも相当だな)
(何か言ったかしら〜?)
(…何も言ってねえ!!!)