「大きくなったら私ちゅーけんのことお嫁さんにしてあげる!」
「いやいやいや!それ逆だから!が俺のお嫁さんになるの!」

目の前でそんなことを言っている自分が酷く遠い存在になったような気がした

「…っていう夢を見た」

うん。と適当な相槌を打てば面白く無さそうに不貞腐れる童顔の彼
元々顔が幼いのに加えて不貞腐れるもんだから完全に子供みたいで可愛いと思ってしまう
そんなことも彼にはお見通しだったみたいで

「今また俺のこと子供みたいって思っただろ」
「お、思って…ない…よ…」

噴き出すのを抑え切れずにプルプル震えながら否定すれば完全に拗ねてしまったのかこちらに背を向けて壁と会話を始めた
どうせどうせ…なんてワザとらしく床にのを書いてみたりどんよりした空気を漂わせてみたり
明らかに構ってほしいオーラが滲み出ているので、放置という選択肢は現段階で捨て去った

「…そんなに拗ねないでよ。ちゃんと聞くから続き聞かせて?」

若干の笑いを引き摺りながら仲権の横に座ってみると、肩に頭を乗せて甘えてきた
また子供みたい…と思ったけど、これ以上機嫌を損ねたくなかったのでその言葉は飲み込むことにした

「続きって言われても…それで目覚めたし」
「ふーん…。そんなこと言ったような言ってないような」

私の記憶が曖昧だったことに仲権の表情が少し曇った
幼い頃の記憶なんて頭の中にありすぎて随所随所ぼんやりしている
大切な思い出もある筈なのに、こればっかりは自分の記憶力の無さを呪うしかなかった

「…俺は全部覚えてるのに」

本格的に落ち込み始めた仲権を見て、流石に心が痛んできたので無い筈の記憶力をフル活用して思い出を振り返ってみる
写真でもあれば思い出せるかもしれないけど、生憎今は持ち合わせていないし…自分の記憶だけが頼りなのに

「………仲権」
「ん?」
「ごめん、やっぱり思い出せない」

私の言葉に本気でショックを受けたようで若干涙目になっている仲権の頭を撫でると、反抗的な唸り声が聞こえてきた
何度も謝罪の言葉を口にすれば、私の気持ちを悟ったようで唸り声をあげながらも許してくれた
それでも、私が昔言ったことには納得がいかなかった様子で

「やっぱり俺がの嫁になるのは変だ」
「…じゃあ、どうすれば変じゃないの?」

少し意地悪したくなって問い掛けてみれば、私の質問を予想していなかったのか次の瞬間には顔を赤くして慌てる仲権
やっぱり子供みたいで凄く可愛い
先刻まで申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、こうしてみると本当に表情がころころ変わって子供みたいに表情が豊富で
もっと色々見てみたい。なんて少し邪な気持ちが芽生えてしまう

「いやいやいや!今は、そ、そんな話をしてるわけじゃなくて…!」
「お嫁さんじゃないなら何になってくれるの?」
「いや、あの、えっと…」

あたふたしながら必死に言葉を探す仲権はきっと私の望んでる言葉を見付けてくれるだろうけど
きっと私もその言葉を聞きたいと思っているだろうけど、現在の状況を楽しみたい気持ちの方が大きくなっているかもしれない
目の前にいる彼は相変わらず真っ赤な顔をして言葉を詰まらせたり唸ってみたり頭を抱えてみたり忙しそうだ
そんな様子を見ていたら、結局この状況が我慢出来なくなって盛大に噴き出してしまった

「…俺で遊んでるだろ?」
「…ご、ごめんなさ…ぷっ…くく…」
「また笑ってるし」

明らかに先程の拗ねているような声とは違った仲権の声色に気付いてそちらを見てみれば
気付いたときに目の前に広がっているのは今まで見えていなかった天井と仲権の楽しそうな笑顔だけで

「…退かないの?」
「全部終わったら退いてやるよ」
「…嫌な予感がします」
「まあ、お仕置きってやつだな」

さっきまでとは全然違う仲権の黒い微笑みから逃げることなんて出来ないから
覚悟をして目を閉じてみれば、額に触れた柔らかい感触をいつも以上に感じることが出来た










(腰が…死ぬ…)
(いやいやいや!それくらいじゃ、死なないって!)
(童顔のクセに…!)
(これで子供じゃないって分かっただろ?)
(…ごめんなさい)