「ベル…あの、これ…あげる」
「…いらない」
差し出された可愛らしい包みを見た途端に今までの不満が爆発したのかもしれない
「あー…何であんなこと言ったんだろ…」
「ベルの奴が珍しく落ち込んでるぞぉ…」
「あらあら」
「…無様だな」
「1個も貰えないレヴィにだけは言われたくねーよ」
狂ったように叫びながら屋敷の壁を破壊して外に消えて行く変態オヤジを無視して、ソファに置いてあるクッションに顔を埋める
「素直に嬉しいって言えば良かったじゃないの〜!」
「…うっせーよ」
からプレゼントを貰って嬉しくないわけが無い
日本流にバレンタインするから何も用意しないでって言われて何事かと思ったら、予想外のサプライズに正直言って驚きと戸惑いを隠せなかった
あんな可愛いことされたら普段だったら人目も憚らず抱き付いてるしキスしてるし。んで、ちゃんと頭撫でてあげるんだけど…
「大体ルッスーリアがに構い倒したのが原因だろ。王子は悪くねーし」
「それならだって悪くないでしょ〜八つ当たりもいいところだわ!」
乱暴にココアを押し付けてプンスカとか意味不明なことを言いながらルッスーリアが気持ち悪いエプロンと一緒にキッチンに消えていった
そのまま存在も消してやろうかと思ったけど、今はそんな気分になれなかった
自分の為に頑張ったことを理解していた筈なのに、それ以上に数日間の隠し事に苛々して思わずの気持ちを拒絶して傷付けた
そんな器の小さい自分が酷く腹立たしくて、押し付けられたココアを一気に飲み干して溜息を吐いてみたけど残るのは虚しさだけで
数日放置したが悪いとか、隠し事したが悪いとか、相変わらず自分勝手な考えばかりが優先されて、流石に自分が嫌になる
こんなこと考えるなんて王子らしくないし。何か気持ち悪くて思考回路がモヤモヤしているような気がする
「邪魔するぜ!」
突然の来訪者に思考を遮られて思い切りナイフを投げ付ければ、間一髪で避けられて更に苛立ちが募る
「帰れ」
「に用事があるんだよ。お前に言われて誰が帰るか」
自分と同じ顔を持つ双子のクソ兄貴の口から愛しい恋人の名前を聞くのは最低な気分で
さっきの倍以上のナイフを投げ付けてみれば、掠りはしたものの致命的なダメージは与えられなかった
「っだよ!にバレンタイン貰えなかったからって八つ当たりしてんじゃねーよ!」
「…は?貰ったし。八つ当たりじゃねーし」
一瞬、ジルが表情を歪めたけどすぐに状況を把握したようで、次の瞬間には嘲笑うような顔でこちらを見下してきやがったから心の中で軽く舌打ちをした
「…とケンカしてるだろ?」
「してない」
「さっきが泣きながら電話してきたけどな」
「…なっ!」
オレの態度に勝ち誇った笑みを浮かべるクソ兄貴に今度は盛大に舌打ちをすると騒ぎを聞き付けた野次馬幹部がこちらにやって来る
「あらあら、兄弟喧嘩じゃないの〜!」
「…屋敷壊したら給料から引くからな」
「ミルフィオーレの奴にも請求書送り付けるぞぉ!」
野次馬を完全に無視して戦闘態勢に入ろうとした瞬間にいつもの気配を感じて動きが止まる
目の前にいるクソ兄貴もそれに気付いて周囲を見渡したことが超絶気に食わなかった
「…何…してるの?」
声のする方を見れば、さっきまで泣いていたのが嫌というほど理解出来る顔のが不安そうな表情を浮かべてこちらを覗き込んでいた
「!」
「…何で…」
「ベルとジルの声、聞こえたから…」
申し訳なさそうに近付いてくるにクソ兄貴が触れようとした直前でそれを奪い取って腕の中に閉じ込めてみれば
今度は目の前のクソ兄貴が盛大に舌打ちをした
と思ったら今度は盛大に溜息を吐いて近くのソファに座り込み、頬杖を付きながらこちらを睨み付けてきた
隙を狙って奪うつもりだろうけど、コイツの前で隙なんて見せるつもりは微塵もない
そう思って腕に少し力を込めたらがそれに気付いたようでさっきよりも更に不安そうな顔でオレの様子を伺っていた
「ベル…?」
「…あの、さっきは…ごめん…」
ぽつりと口にした謝罪の言葉は他の奴には聞こえなかったみたいで、だけが少し驚いた顔をした
オレが謝るなんて滅多に無いことだからそれに驚いたんだろうけど、ジルがいる手前そんなことを気にしてる場合じゃなかった
「怒ってないの?」
「…怒ってない」
「でも、さっき…」
「が王子のこと放置してルッスに構ってるのが気に入らなかったんだよ」
苦々しく改めて理由を口にしてみれば、自分の器が小さいことを痛感することになった
未だに腕の中で驚いた顔のまま固まっているは、突然我に返ったようにオレを見上げて申し訳なさそうにする
「ごめんね」
「いいよ」
「ベルの気持ち考えてなかった…ごめんね」
「そんなことないでしょ」
「でも、ごめんね」
「…だから、別に怒ってないんだって」
何度も謝ってくるから思わず語尾が強くなる
それに気付いてまた謝罪を繰り返すから、その言葉を遮って名前を呼んでみる
はそれに素早く反応して、視線が絡む
やっぱり目は少し赤くなっていて、いつもより小さく見えたの頭を撫でてみると頬が少しだけ赤くなったような気がした
腕の中で大人しくなったのを確認して、今度はオレの方から話を始める
「あれ、がオレのために用意してくれたんだよね?」
改めてそれを確認すれば、無言で何度も頷かれる
そんなに頭ぶんぶんしなくても十二分に伝わってるんだけど敢えて何も言わない
「それでオレのこと放置してルッスーリアと買い物したりしたんだよね?」
「ごめんなさい」
「それでオレのこと放置して夜遅くまで準備してたんだよね?」
「ごめんなさい」
此処でも返ってくるのは謝罪ばっかりで、面白くないから少し意地悪してみようかと思ったけど
クソ兄貴の前でそんな自殺行為は出来ないから意地悪するのは部屋に戻ってからすればいい
そう誓って、また名前を呼んでみれば、結局見えるのは怯えた不安そうな表情ばっかりで
こうやって近くで話すことも触れ合うことも楽しみにしてた筈なのに、何でこう上手くいかないのか
恋愛相談だったら任せろと豪語するオカマ野郎に相談することを一瞬でも考えた自分が酷く惨めで
が欲しがっている言葉をあげようと一生懸命考えたけど
「だから、全部王子が貰ってあげるよ」
口から出るのは相変わらず王子気質のこんな言葉だけで、此処まで予想通りだと自分で自分を褒めたくなる
でも、そんなオレの言葉に安心したのか、は嬉しそうに笑顔を返してくれた
久々に見たような気がする笑顔に胸の奥が温かくなるような不思議な感覚に襲われた
やっぱりは笑顔が似合うなんて定番の台詞は言えなくて、言葉の代わりに少し乱暴にキスをしてみる
クソ兄貴の罵声と野次馬幹部の呆れた声が聞こえたような気がしたけど、目の前にある気恥ずかしそうな笑顔を見てるだけで満たされるから、他のことなんてどうでもよかった
(もちろん、も王子が貰うから)
(…あ、ありがと…)
(クソ弟が調子乗るなよ!!オレにも用意してるだろ!)
(うん。えーっと…)
(ダメ。それもオレが貰う!全部オレの!)
(ふざけんな出来損ないのくせに!)