「ジルにとって誕生日って何?」

コイツの言葉は、いつも理解するのに時間が掛かる

「…いきなり何だよ?」

当然とも言える疑問を投げ掛ければ唇を尖らせて不満そうな顔をする
そんな顔も悪くないし、もっと見たいと思ってしまう自分の思考回路は既に壊れているんだろう

「今は私が質問しています」
「いきなり変なこと聞くからだろ…で、誕生日?」
「そう!誕生日!」

オレが話を戻すと嬉しそうに目を輝かせて身を乗り出して答えを待つ#name1の方に顔を寄せてみると、物凄い勢いで後退りした
お決まりの行動パターンなのは分かっているけど、毎回こんな反応をされては埒が明かない

「何してんの…!」
「別にいいだろ」

近付いたのは#name1のクセに、こっちが少し仕掛けてみればこんな反応
いつになったら慣れるのか、面白いと言えば面白い
でも、いつまでもこの状況を受け入れられるわけじゃないし、こっちにも色々と事情がある

「…そろそろ慣れろよ」
「え、何?」

心の底から疑問に思っているような答えに思わず項垂れてみれば、心配そうに顔を覗き込まれた
誰の所為だと悪態を吐きながら外方を向くと、それを特に気にする様子も見せないでまた話題を戻す
すぐに議論することを諦めたことから考えて、先程の話をどうしても続けたいらしい

「今日ベルとジルの誕生日でしょ?」
「オレとベルの」
「順番なんて別にいいじゃん」
「…よくない」

コイツの口から先に出た弟の名前に苛立ちを覚えながら抗議しても簡単に流される
自分の言葉にどれほどの威力があるのか本人に自覚がないから厄介だ

「私にとっては大好きな王子様達の誕生日なんですよ」
「そーかよ…」

#name1の『大好き』はその無邪気な笑顔以上に残酷で、否が応にも耳の奥底に響く
嬉しい筈の言葉も、捉え方が違うだけでこんなにも自分を苛立たせる
そんなオレの様子に気付くことなく楽しそうに話を続ける#name1の言葉は、不愉快以外の何物でもなくて
無意識のうちに俯いて、その声自体を拒絶する

「って、ちゃんと聞いてる?」

ぐいぐいと服の袖を引っ張る#name1と目が合った途端に脳内に声が響く
気付いた時には限界を突破していたようで、袖を掴んでいたその手を乱暴に握りしめた
一瞬の出来事に驚きと若干の恐怖を含んだ顔がオレの目に映る
切れと散々言われ続けている前髪の所為で#name1にはそんなオレの表情は分からないだろうけど

「で、何か言い忘れてるだろ?」
「…あ、えっと…誕生日…おめ…」

続きは安易に想像出来たから最後まで聞かないでそのまま引き寄せて腕に閉じ込める
瞬間、少し身体が強張ったような気がしたけど、そんなことオレには関係ない

「ジル…?」
「喋んな」
「えーっと…」
「オレとベルの誕生日…だろ?」

言い出したら聞かないオレの性格を嫌と言うほどに把握している#name1だから
この状況から逃げ出そうなんてことは考えないで黙って頷いて腕の中で大人しくなる
そんな#name1を何も言わないで擦り寄ってみたりすれば、優しく頭を撫でられた

どれくらいの時間そうやって頭を撫でられていたのか
気が付くと日が沈み始めていたようで部屋が少し薄暗くなっていた
#name1の手は未だにオレの頭を撫でていて本人もそれが楽しいのか止めようとしない

「…子供扱いしてんじゃねーよ」
「だって珍しく甘えてくるから」

流石に少し気恥ずかしくなって悪態を吐いてみれば
今度はよしよし、なんてからかうような言葉を向けられる
先程の不快感とは少し違う複雑な気持ちが胸の中に広がるから
仕返しと言わんばかりに頭を撫でるその手を掴んで甲に口付けしてみれば
今までの余裕は何処へやら、目の前には笑えるほどに真っ赤になった#name1の顔があった

「こんな誕生日も悪くねーな」
「ジルは卑怯だ…」
「はいはい、悪かったな…お姫様」

油断してる方が悪いと言い放ってまた擦り寄ってみれば
今度は少し遠慮がちに頭を撫でられた