「ベルにとって誕生日って何?」
なんて珍しく真剣な表情で聞いてくるから
オレも真剣に答えようと思って考えを巡らせてみたけど
思い付くのは、たった一つだけで
「誕生日は誕生日でしょ」
当然のように返してみれば、それは違うと不服そうに否定された
当たり前のことを言っただけなのに、何でこんなにあっさり否定されなければいけないのか
「おめでとう!って言われて嬉しい?」
「そりゃー嬉しくないってことは別に無いけど」
特にから言われたら…と付け足してみれば満面の笑みを向けられた
たったこれだけのことでこんなに嬉しそうに笑うが愛しくて思わずその頭を撫でてみると
それが心地良かったのか、目を細めて幸せそうな表情を浮かべた
「…って、そうじゃない!」
上手く丸め込んだつもりだったけど、今回はそんな簡単にいかないみたいで
抗議の声を上げながら恨めしそうな視線を向けてくる
「私にとっては特別なの」
「誕生日が?」
「それもあるけど…」
何か伝えたいことがあるのは分かったけど、それを躊躇するように俯いてしまったから
無言でその続きを待っていれば、沈黙に耐えられなくなって観念したのか
視線は下に向けたまま、ぽつぽつと言葉を吐き出していく
「誕生日はベルが生まれた日でしょ?」
「そうだね」
「この日が無かったらベルは生まれてないんでしょ?」
「まあ、そうだろうね…」
の様子から何と無く言いたいことは悟ることが出来たけど
それに気付かないフリをして、の精一杯を最後まで聞いてみたくて
言葉を続けることを促すように返事をしてみたけど
「だから…特別だなって…思…って、うわっ!」
照れ隠しなのか、少し困ったように笑うの顔を見ていたら
無意識にその身体を引き寄せて抱き締めていたみたいで、驚いた声が頭上から響く
「よく分かんない」
「こーゆうこと言うの結構恥ずかしいんだよ…」
「いつも恥ずかしいことしてるのに?」
そう言っての顔を覗き込んでみれば、何を思い出したのか突然あたふたと慌て始める
予想通りの反応に思わず吹き出すと我に返ったに胸を叩かれた
ぽかすか音がする程に叩いてくるから、思わず抱き締めていた身体を離す
「それ、地味に痛い…」
「うるさいうるさい!」
「王子に口答えするなよ」
仕返しと言わんばかりに先刻以上に強く抱き締めて腕の自由を奪ってみれば
叩くことは諦めたのか、代わりに思い切り抱き付かれる
不意打ちの行動に心臓が少し煩くなったけど自分から抱き締めた手前、引き離すことは出来なくて
胸に顔を押し付けていたが、違和感に気付いたのか目を閉じて更に耳を押し当ててオレの音に意識を集中させた
「…ベル、ドキドキしてるねー」
「生意気なんだけど」
嬉しそうに耳を押し当てて、その音を聴き続けるの髪に軽く口付けた
一瞬、意識がそちらに向いた隙に体勢を変えて今度はオレがの胸に耳を押し当ててみる
突然のオレの行動に驚いたが離れようとしたけど、既に抵抗なんて無駄な行為に成り下がっていて
「、すげードキドキしてるんだけど」
「だ、だってベルがいきなり…」
しどろもどろになりながら必死に言い訳するが面白くて愛しくて堪らない
大好き、なんて呟いて目を閉じれば抵抗を諦めたのか溜息と一緒に「私も…」なんて返事が聞こえてきた
「ベル、あのね」
「何?」
「私、ベルと一緒にいるだけで毎日ドキドキしてるんだよ?」
油断していたら突然こんな可愛いことを言うもんだから、その瞬間に世界が歪むほどの眩暈に襲われる
…何これ、完全にオレの負けじゃん
そう思って心の中だけで降参の合図を出して、再びを力強く抱き締めてみると
今度はそれを素直に受け入れてくれたようで、少し戸惑いながらもおずおずと背中に腕を回してきた
「誕生日…おめでと…大好き」
厄介な無自覚なのか、またしてもこんなことで止めと言わんばかりにオレの世界を歪ませるから
そろそろ本気で閉じ込めることを検討しようなんて考えが脳裏を駆け巡った
今はまだ、こんな汚い感情を目の前にいる恋人に伝える気は無いから、悟られないようにそれを心の奥底に仕舞い込む
「、今夜は寝れると思わないでね?」
「…覚悟しておきます」
冗談で言ったつもりだったのに、オレの言葉を素直に受け入れてくれて
そんな返事をすれば、自分がこの後どんな目に合うのか分かっいて
全てを理解しての発言だったんだろうけど
「朝まで離してあげないから」
「朝になっても離れてあげないから」
結局、引き金になるのはの口から紡がれるその言葉だけ
俺様主義の王子でも、このお姫様には敵わない