毎年この時期になると考えるのは君の喜ぶ顔で
どうせ質問したところで「がくれるなら何でもいい」って
私の大好きな笑顔で言い返してくるから
今回は意地でも聞かないことにした
去年と違う私の様子を察したのか、少しソワソワしている君から目を逸らしてみれば
明らかに落ち込んでいるので、思わず頭を撫でてみる
「王子、誕生日なんだけど?」
「だねー」
「…」
「あーもう…仕方ない王子様ですね」
意地を張っていたけど、結局勝つことなんて出来ないみたいで心の中で白旗を挙げた
今年も予想は付いてるけど、そこは敢えて聞いてみる
「何か欲しい物ある?」
「」
「私は物じゃありません」
想定内の回答に溜息を吐いてみれば、本人は至って真面目に答えたようで不思議そうに私の顔を覗き込んだ
「だって、は王子のでしょ?」
いつから私は貴方の所有物になったんですか?
「だってオレ王子だもん」
相変わらず意味が分かりません
不満そうに口を尖らせるベルを横目に、私は事前に用意していた白い箱を目の前に差し出す
不思議そうにそれを眺めるベルに、箱を開けるように促してみれば子供みたいに無邪気な表情で、箱に手を掛ける
「………ケーキ?」
「ケーキ」
明らかに表情が曇ったのが分かったけど、気付かないフリをする
こんな風に焦るベルを見ることなんて滅多にないし
そして何より面白い
「…も、もしかしてが作ったの?」
声が若干裏返っていることにも気付かないフリをして大きく頷いてみる
明らかに困ったような…でも、照れ臭そうな顔をする
「去年食べたいって言ってたでしょ?」
「…何それ、覚えてたの?」
「ベルが言ったことなら大抵は覚えてますけど?」
「ふーん…」
俯いているけど、仄かに頬が赤くなっているのが分かった
見てるこっちが照れるから敢えて何も言わないけど
「…食べる」
「召し上がれ」
切り分けた後にフォークを差し出せば、ぶんぶんと首を振って拒否される
こんな行動も別に珍しいことじゃないので、ベルの意図を見抜いてあげようと少し考えてみれば、無言で口を開けて
「が食べさせてくれなきゃ食べない」
子供みたいだと苦笑しながら言えば、誕生日だからという子供みたいな言葉が返って来る
きっと、このままだとベルは本当に食べてくれないことは明白だから仕方なくフォークに一口サイズのケーキを刺してベルの口元に持っていく
「ん」
「…こーゆうとき言うことあるでしょ?」
「…あーん」
「やれば出来るじゃん」
満足気に差し出されたケーキを食べる
正直何回も失敗したし味に自信は無かったけど、ベルは美味しいって全部食べてくれた
それが悔しいけど、何だか無償に嬉しくて口元に付いていた生クリームを手で拭き取ってみる
一瞬だけ驚いた顔をしたけど、すぐに無邪気な子供みたいな笑顔を向けてくる
こんな顔を知っているのは自分だけなんだと何とも言えない独占欲で胸が満たされたような気がした
「もっとちょーだい?」
「はいはい、王子様が満足するまで付き合いますよ」
きっとこの人が満足することなんて一生無いんだろうけど
そんな人の傍に居たいと思っている自分がいるのも事実だから
もしこの人が自分を必要としてくれるなら、ずっとずっと隣に居られたらいいなんて
本心を言ったら絶対に調子に乗る王子様には内緒にしようと思いながら、楽しそうに笑っているベルに再びケーキを差し出した
(もあーんして?)
(いや、いいですいいです)
(王子の命令が聞けないの?)
(…頂きます)
(はい、召し上がれ!)